yullco1と美少女ノベルゲ vol.1

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                              (『ランス03』より)

 yullco1と美少女ノベルゲ

 美少女ノベルゲームが好きだ。

 熱狂的なプレイヤーがたくさんいた全盛期――2000年代前半(その頃は「ボボボーボ・ボーボボ」でげらげら笑ってた)から遠く離れて、斜陽というか周縁の位置になり始めた頃にぼくは美少女ノベルゲにハマり始めた。

 高校時代の文学少年っぷりは先の記事で書いたが、一方でオタクカルチャーにもそれなりに親しみがあった。ライトノベルもそれなりに読んでいたし、幼なじみ(現在引きこもりらしい)の影響でガンダムも好きだった。受験期のボロボロメンタルを支えてくれたのはラブプラスだ。(寧々さんのおかげでストレス性皮膚炎が治った)。

 この時点でただのオタクでは?って感じだが、あくまで高校生のぼくが1番好んでいたのは近代文学だった。

 そんな感じで無事受験を終え、文系大学生になる。

 ようやくスニーカーの靴紐を左右別の色にするのはおかしいと気づいたが、今度は細パンツを履きブーツインし始める(V系か?)。靴は変わってもこじらせ度は変わらなかった。

 さて、大学でも文学少年っぷりを発揮できればよかったのだが、授業やゼミの義務感に追われて文学に触れるのが嫌になってきて少しずつそこから距離を取り始めた。好きでもない作家のマイナー短編とか読みたくないよ~という振り返るとナメてんのかコイツ、って感じのクソアホムーヴだ。

 つまるところ、自分の実存と文学に触れる体験とが解離してしまったのだ。大げさな言い方だけれど、まあ子どもみたいなワガママだ。

 結果ただの萌え萌え人文系オタクが生まれた。このタイミングでゼロ年代批評を読み始めたのもアレだった(これについては別の機会に)。

 その頃から美少女ノベルゲームに魅せられていく。

 他のジャンルにはない奇妙なエモさ。欲望、狂気、汚辱、喪失、寂寥、後悔、祝福、崇高……。いろいろなものがごちゃまぜになってそれらすべてが肯定されている。どろどろときらきらの混淆。

 選択と分岐も独特の魅力だ。「あのときこうしていれば別の生き方をしていたかもしれない」という素朴な感覚はとても共感できるものだった。それを取り上げ前景化したメタいノベルゲはぼくの実存に揺るがすものばかりだ。

 そんな美少女ノベルゲームが好きだ。斜陽だろうと滝から落ちようと好きだ。好きなものは好き。

 そんな感じで今回もいくつか作品を紹介しよう。

※可能な限り配慮したけれどネタバレ箇所もあります。致命的なものは避けているはずです。

 

パルフェ ショコラ secondbrew』

お前の周りの世界は…お前が考えるよりも…ちょっとだけ優しいんだよ

 

 初めて買った作品だ。「エロゲ 初心者」で検索するとよくオススメされてる。 

 これが美少女ノベルゲ入門にいいのかはまあよくわからない。

 けれど、今振り返ると丸戸史明の特徴が充分に出ている作品だと思う。

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 どのジャンルにも出てきそうなありがちなヒロイン像。と見せかけてどこかズレためんどくささを抱えていて、それがキャラクターの言動の確かな芯になっている。丸戸の生み出すキャラクターの魅力はこういうところだとyullco1は勝手に思っている。

 花鳥玲愛・杉浦小春・澤村・スペンサー・英梨々と丸戸ヒロインに人生を3回破壊されているyullco1が言うのだからそれなりに説得力あると思う。

 

君が望む永遠

 よいしょ よいしょ よいしょ

 ほんとうのたからもの を みつけたハルは しんじています

 いつかまた みんなで なかよくおひるねできることを

 ずっとしんじています

 

パルフェ」の次に遊んだ作品(たぶん)。

 yullco1の考える美少女ノベルゲらしさがつまった良い作品。

 ありふれたカップル。少女はある日交通事故に遭い昏睡状態に。それから3年の月日が経って少女は突如昏睡から回復する。世界はすっかり変わってしまい、かつて少年だった人は成長し、そのとなりには別の女性が……。かつて愛した遥と悲しみを癒してくれた水月のどちらを選ぶのか……という三角関係ものが本筋。

 yullco1は遥派だったのでとりあえず遥エンドをやり、そこではほ~んってだけだったのだが、後回しにした水月エンドでビチャビチャにされてしまった(Otaku tear)。美少女ノベルゲで最も好きなエンディングの1つだ。

 水月エンドでは当然遥は主人公と結ばれない。しかし、水月エンドではその選ばれなかったヒロインである遥の思いをとても美しい形で救っている。

 かつてあった幸せと離別の痛みと共に肯定される今と未来への祈り。

 ほんとうに美しい。ビチョビチョに泣いた。

 

 もちろん水月と遥、どちらも選ばないという選択もある。サブヒロインも負けないくらい濃い魅力がある。水月に盛大に引導を渡す大空寺あゆはカッコいいし、天川蛍ルートは別の泣きゲーと化していた。

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 マナマナは特別印象的だ。昔のハードディスクを漁ったらこのスクショだけ残ってた(なんで?)。なんか異常っぽい雰囲気が伝わるといい。

 BGMもたいへん出来が良いのでぜひ(サントラ所持)。「誰にでもある明日」が流れる遥のリハビリシーンはビシャビシャに泣く。

 

Fate/hollow ataraxia

 世界を回し続けろ。
 あの黄金の日々を。
 オレには決して手に入らなかった、本来与えられるべきだったモノを―――

 

 yullco1を決定的に月厨とした奈須きのこ最高傑作。

 サーヴァントと過ごすありえなかったはずの穏やかな日常。繰り返す4日間。パラレルに展開する食い違いだらけの夜の聖杯戦争。stay/nightとは方向性がまた方向性が違った魅力があり、こっちの方が刺さるって人も多いはずだ。yullco1がそう。

 覆らない後悔や失敗を抱えて亡くなった英霊。サーヴァントとして再び世界に召喚された彼ら/彼女らがそれに対して自分なりの答えを出そうと模索する姿のひたむきさがFateの良いところだと思う。

 hollowにおいて平穏な日常を過ごすサーヴァントたちは、その日々を一瞬の幻だと理解した上で精一杯はしゃぎ、それをかけがえのないものとして享受しようとする。その間隙に生前抱えていた様々なものが見えてくるのが愛おしい。

 繰り返す4日間の輝きを本物/偽物という対比を設定しながら攪乱させていくのも奈須らしさが出ている。

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 hollowのセイバーは本当に尊い(vitaとPCのスクショが混じっててごめん)。Fate関連作品は山ほどあるが彼女を1番魅力的に描いているのはhollowだと思う。

 

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 終盤のイリヤとの会話もとても儚くきれいだ。

 

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 繰り返す日々の終幕を看取ってくれる自己評価めちゃ低ボロボロ聖女、カレン・オルテンシアさんは型月で1番好きなキャラクターです。

 

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 とにかく最後はハチャメチャに泣く。

 余談。なんかいろいろと悪名高いFGOだけど、フレーバーテキストだけは手放しで褒めたい。特にhollow関係。

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『Forest』

俺たちの「外」に世界がある。俺たちは誰かの夢だ。その夢を見ていやがるクソッタレは――そうさ、やっぱり俺たちとおんなじさ! 「語り手」と「聞き手」がいる。「読む」「踊る」「語り継ぐ」物もいる。お気に召したかい、この夢は? どっかで見ている誰かさんよ?

 

その誰かさんが、何をしているか、あなた知ってる? すぐそばにティッシュの箱を置いて――

   

 情緒不安定なテキストと妙ちきりんな演出とゲームであることへの自己言及性が特徴の怪作。

 物語の「外」になんらかの意志(要は画面の前のプレイヤーだ)が存在しており、彼らの満足のために、セックスさせられていることを自覚するキャラクター。

 背景に実際の新宿の風景をコラージュして生み出された異界の森。

 テキストとまったく別の内容のボイスを流す情報の二重化。

 仕掛けと演出にとにかくドキドキさせられる。

 めちゃくちゃ出来が良いBGMと大石竜子さんの18禁ゲーらしからぬかわいらしいイラストもこの作品の神秘的な雰囲気を高めている。


Forest - Bagpiper

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 映画にもアニメにも小説にも還元できない奇妙で特異な美がここにはある。

 

るいは智を呼ぶ

あなたは沢山の私と出会いました。では、呪いの解けない私は、あなたが選ばなかった私は、そんなに不幸せに見えましたか?

 

語り合えなかった言葉を夢に見る。もっと違う、幸せでちっぽけな出会いを幻想する。あり得たかもしれない過去の全てと、あり得なかった未来の全てを一瞬に集める。

 

 本当の性別を知られてはいけないという呪いを抱えているために、女装して生きることを強いられている少年和久津智。ささいなきっかけから様々な呪いを抱える自分とよく似た境遇の少女たちと出会い〈同盟〉を結成、トラブル解決や呪いの解除に奔走する。

 

 苦しみや痛みのない世界をどれだけ探そうとも、あのときああしていれば、こうしていれば、という後悔は消えない。もっと幸せになれたかもしれない、と夢想してしまう。

 じゃあこの世界でどう生きていけばいいんだろう?

 そんな素朴な問いにとても真摯に向き合った作品。ファンディスクの終盤でデロンデロンに泣く。

 めちゃくちゃ好きな作品なのですが、根幹の良さを説明しようとするとネタバレに触れないといけないのでむずがゆい。この先は君の目で確かめてくれ!(ヤケクソ)。ファンディスクが実質続編というかそこまでやらないと完結しないのでセットでやってね。

 代わりに性癖の話をしよう。yullco1は智くんの存在によって女装ものの良さに目覚めた。

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 智くんは女装主人公にありがちなオーバースペックキャラではなく(体は男だから女の子よりは足速いってぐらい)、基本的には弱い存在として描写されてるのが良い……萌え……。

 

君と彼女と彼女の恋

君が、本当に彼女たちを想うなら―――

君が正しい結末を迎えるなら―――

選択肢を選べるのは、一度きりだ。

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 どこから何に触れてもネタバレになりそうな作品だ。いろいろなスクショが拡散して有名なのでなんとなく知ってる人は多そうだけど。

 美少女ノベルゲの形式を徹底して突き詰めた結果、倫理と愛が出てきた、みたいな作品。あるエンドは美少女ノベルゲすべてのヒロインの祝福であると同時にプレイヤーへの呪縛になっているのが本当にうまいと思った。

 発売当初からかなり話題になっていた記憶がある。yullco1は予約をしたつもりが実際してなかったという大ちょんぼをキメたため秋葉原から大宮まで行ってようやく初回版を手に入れることができた。

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 初回版は手のひらサイズのキレイな箱に入ったUSBメモリーという珍しい形態だ。さらにはその箱も作品の演出の1つとなっていて、後から意味がわかったときにはゾクゾクした。

 こちらも説明うんぬんよりも実際に触れてほしい作品。

 

 

 

 今回はここまで。

 紹介しきれなかった作品がまだまだたくさんある。(最初にランスから引用しといてアリス作品何も紹介してねえ)

 まとめてやり過ぎて時間かかったので小分けでもう少しラフにやりたい。

 次は人文書の紹介かまったく関係ないことについて書きます。